会津若松城滝沢本陣

日本テレビ年末時代劇スペシャル「白虎隊」

白虎隊ドラマの決定版だなこりゃ

 1980年代半ば、日本テレビ系列では年末大型時代劇なるものをやっていた。その中で最大のヒットとなったのは、昭和61年に放送された「白虎隊」だ。あまりにも名作なので、私はDVDを買ってしまった!
 この年末時代劇スペシャル・・・俳優陣の豪華さといったら、それはすさまじいものがあった。昭和60年の忠臣蔵を皮切りに、白虎隊・田原坂・五稜郭・奇兵隊・勝海舟、と毎年のように力作を世に送り出したのである。幕末モノが多かったのが嬉しいし、貴重であった。日本人が涙する「滅びの美」に力点を置いた作品が多く、白虎隊などはその頂点を極めた作品、と言えようか。

 さて、昭和61年に放映された「白虎隊」〜ご存知のとおり、京都守護職として王都警護にあたる会津藩主従が、薩長の巧妙な策略によって賊軍の汚名を被ることになり、最後は会津鶴ヶ城落城に至るまでの姿を描く。主題歌がとにかく大ヒットした。堀内孝雄の「愛しき日々」だな。当時のDVDで聴くと、声が若い!別人みたいだ。
 会津藩主松平容保に風間杜夫、家老西郷頼母に里見浩太郎、神保修理に国広富之、みんな気持ち悪いくらい若い。全体を通しての「主役」は森繁久彌演じるご隠居井上丘隅と言える。娘(池上季実子)を神保修理に嫁がせるが、その神保修理が鳥羽・伏見の戦いの責任を取って切腹するまでがドラマの前篇だ。池上季実子の「透き通るような美しさ」が見モノだった。このドラマのヒロイン的存在と言えようか。


東京都日野市で行われた新撰組まつりから我らが土方歳三〜東京都日野市出身東京都日野市で行われた新撰組まつりから

新撰組と会津藩〜微妙な心の擦れ違い

 井上丘隅の娘であり神保修理の妻(池上季実子)に恋をしてしまったのは、若き剣士沖田総司。会津藩のために捨て駒にされた怒りと、彼女に対する許されぬ思いが錯綜し、感情を叩き付けるシーンが印象的である。演じたのは故中川勝彦氏。中川しょこたんのお父様ですよ!勝彦氏自身もまた若くして亡くなってしまったことを思うと、まるで本物の沖田総司がそこにいるかのような錯覚にとらわれる。
 井上丘隅のもう一人の娘(ちか子)は、これまた故人である坂口良子さん。世の男性ファンからすれば、彼女が脇役であるのが許せないと思わせるかも知れない。彼女の夫(野村佐兵衛)は、多摩の百姓に過ぎなかった近藤や土方の資質を見抜き、良き理解者であった。その野村もまた、長州藩との戦闘で死亡。新撰組の隊士達は、「僕らのことを分かってくれる人は野村様だけだったというのに・・・」と彼の死を悼む。未亡人となったちか子に対し、言葉の選び方に悩む土方歳三(近藤正臣)。土方は、彼女に対する恋心を密かに抱いていることを自分で気付かない。そして、「僕もじきに(死地へ)行きますよ!」と言ってしまい、坂口良子を泣かせてしまう。ドラマとはいえ、絶望的な状況下で運命に抗いながら、生身の人間としての感情が随所に滲み出る様子を巧みに表現しているように思える。

 土方の最期はこのドラマでは描かれない。続編とも言える「五稜郭」では、土方とちか子の同じようなシーンが再び登場するところが憎いね。

五稜郭のミニチュア土方の最期・・・五稜郭タワーのミニチュアです

 土方の運命は、2年後の年末時代劇スペシャル「五稜郭」でたっぷりと・・・

充実感もあれば物足りない感もあり

 ドラマを見て「物足りない」と感じたのは、方言が薄いこと。鹿児島県人と会津人が出会っても、ほとんど言葉が通じないという時代。もうちょっと踏み込んだ「リアルさ」を追及して欲しかった。幕末の目が回るような複雑な流れを分かりやすいように表現せねばならないから、仕方ないか。
 前述の新撰組と会津藩の微妙な心のすれ違い、容保と頼母の意見の衝突など、案外キメ細かい描写をしてる。松平容保が、孝明天皇からご宸翰を賜るという光栄に守護職そしての自信を持ち、藩をあげて精勤する様を、ドラマでは堂々と描いていた。ところが、薩長や岩倉の卑劣な策略によって会津は「賊軍」に転落してしまうのだ。

白虎隊士の墓白虎隊士の墓

 後半は、白虎隊士が主役。坂上忍がねぇ、気持ち悪いくらい若いんですよ。明るくハキハキした好青年で(笑)。もう一挙一動に突っ込み入れたくなる。ちなみに坂上忍だけは目立つからすぐ分かったけど、他の隊士達は総じて印象に薄く、「今なにやってんだろ、ただのオッサンなんだろな」という感じ。

 後半で、特に光ったのは「長州藩士・奥羽鎮撫総督府下参謀:世良修蔵」役の泉谷しげる。これ、ものすごい似合ってるんですわ。世良修蔵とは、奥州を無意味な戦争に持ち込んだ悪玉として有名な人物。東北人を根っからバカにしてて、怒った仙台藩士らに斬られるのだ。しかも遊女と寝てたところを踏み込まれるという、超カッコ悪い役。ふんどし一丁で、汚い腹さらけ出して、迫真の演技を見せる泉谷さん、かなり見ごたえありだ。

 押し寄せる薩長軍相手に薙刀で立ち向かう中野竹子役に岩崎良美、いかにも清純な会津女性を熱演していた。「わーい、女だ!生け捕れー」とはしゃぐ野獣共を斬り倒すシーンは痛快。中野竹子で有名なエピソードといえば、「風呂を覗きに来た若者達を薙刀で追う話」であろうか。ドラマでは、それとよく似たシーンがある。薙刀の稽古を終え、体を拭こうとする女性達を覗き見したのは何と井上丘隅(森繁久彌)。恐らく本人は「俺そんなことしてねーよ」と絶叫しているだろう。ドラマの流れでそうなったにしても、不名誉な誤解を招くシーンで大いに問題(笑)。

涙橋(会津若松)薙刀を構える中野竹子像

↑竹子ら会津女性が西軍と対峙した涙橋〜会津若松市内は、薙刀を構えた竹子の銅像もある↑

 泣ける場面は、西郷頼母一族の自刃であろうか。死に切れず呻く幼い女子を前に驚愕する土佐藩士:中島信行。武士のお情けを!と頼まれ、泣く泣く介錯する場面は何とも涙を誘う。一番幼い息子が母親の命で城内に逃げ込み、父親である頼母に「お母様やお姉さま達は、これから遠くへ旅立つとのことです!」と、深い意味も理解できぬまま律儀に報告するシーンがぐっと胸に迫る。
 山川大蔵が、彼岸獅子の行列を先頭に立てて敵味方双方を欺き、鶴ヶ城に合流するシーンもあった。会津戦争の重要な出来事を大体網羅していて、初心者でも分かりやすい構成に仕上がっている、と言えよう。

 どうしても注文をつけたかったのは、やはり役者さんの言葉(セリフ)の問題。会津以外の世界をほとんど知らない白虎隊の少年達に、会津人特有の体臭を表現出来たら、かなり号泣ものだったかもしれない。白虎隊士が登場するシーンは、総じて印象に薄かった。

→写真の数々は、「幕末会津藩の悲劇」渡辺謙さんの超泣けるドラマ「壬生義士伝」コーナーで・・・


北条四郎のホームページ:敗者のための映画館


.
copyright (c) 2007 hojyo-shiro. All Rights Reserved.
inserted by FC2 system