五稜郭土方の最期・・・五稜郭

年末時代劇スペシャル「五稜郭」

あの頃の日本テレビは気合が入ってた

 昭和63年の年末時代劇スペシャル!あの頃の日本テレビは気合が入ってたな。毎年のように幕末大型時代劇を製作していた訳だ。何と言っても一昨年の「白虎隊」は見事な出来具合と言っていい。
 「白虎隊」は内容からして終始悲愴感漂う作品であったのに比べ、「五稜郭」はリラックスして楽しめる作品と言える。「白虎隊」の続編のような雰囲気を感じたのは、早乙女貢:続会津士魂に洗脳されてる性かもな。

新撰組というより西部警察〜渡哲也さん

 散々語り尽くされていると思うので、気になる感想をいくつか・・・。ドラマ見始めて最初に驚くのは、浅野ゆう子が若い!いやー、榎本武揚の奥さんはこんなにきれいだったのかね。
 土方歳三は渡哲也が演じていたが、どうも西部警察の気が抜けてないですよ。あれはどう見ても大門団長!土方歳三の写真が既に周知されているから、「顔が違うよ!」という違和感が起きるのは仕方ない。
 味わい深いのは、元会津藩公用方の妻:野村(井上)ちか子とのシーン。会津若松で再会した二人が交わす会話は、役者こそ違っているけれど、一昨年前の「白虎隊」とほとんど同じだった。思わずはっとさせられた。これまた憎い設定である。一昨年前の大傑作を引きずっているとしか言いようがないが、何だか製作者側の遊び心を強く感じてしまう。
 土方歳三が、死を前にして井上ちか子と夢の一瞬を過ごす場面は創作だろうが、こういうところもまた娯楽色を強めた本作品の味ってものかもしれない。

五稜郭のミニチュア土方の最期・・・五稜郭タワーのミニチュアです

五稜郭タワー内に函館戦争のミニチュアが数多く展示されている↑

ラストサムライ〜実はこの人がモデル

 何年か前にラストサムライという映画が話題だったが、青い目のサムライは実存した。映画版ラストサムライでは、西郷隆盛を彷彿とさせる人物と共に新政府軍と戦う設定だが、本物のラストサムライは榎本武揚と共に新政府軍と戦った。
 フランス陸軍ブリュネ大尉〜ナポレオン3世より幕府陸軍の練成を命ぜられて来日、江戸開城後も本国の指令を無視して榎本軍に身を投じた。絵の心得もある大尉は日本の風景の数々をスケッチ、将軍慶喜のスケッチまで描いている。恐らく「侍」というものを初めて理解した西洋人なのかも知れない。彼は最後まで諦めなかった。日本の近代化は幕臣達によっても十分成し遂げられることを確信していたのだろう・・・。



↑榎本軍幹部を見守る二人のフランス人・・・奮戦する榎本軍↑(五稜郭タワーのジオラマ)

 ブリュネ大尉は岡田真澄が熱演してる。本当にこの人は顔が日本人じゃない。スターリンの物真似をさせたら右に出るものはいないだろう。
 副官カズヌーブ伍長も味があっていい。さらにさらに、カズヌーブと共に戦う伊庭八郎も格好いい。この剣士は、左手を斬られて不自由になりながらも戦い続け、その勇姿は錦絵にもなっている。片手は不自由なれど、それなりに羽織をしゃんと着こなして野暮なイモ侍を斬ったとなれば、江戸市民はやんやの喝采だった。幕末となれば、旗本八万騎などと見る影もないと思われたが、彼は最後まで旗本の意地を見せ付けた。彼を演じたのは舘ひろしさん。

風間杜夫〜逆境に耐える男を演じるのが上手い

 榎本軍に合流した人物で忘れてはならないのは、医師:高松凌雲先生(風間杜夫)。パリ留学を援助した幕府への恩義から榎本軍に身を投じた。凌雲先生が行ったのは、敵味方問わず治療するという、赤十字の精神。新政府軍が乱入した際も、毅然とした態度で挑み、薩摩藩士:池田次郎兵衛に「薩州隊改め」の墨書きを書かせて難を逃れている。一方、高龍寺分院では新政府軍によって無残にも患者が斬り殺されていた。薩長の田舎侍に赤十字だなんて言ったって誰も分かりゃしない。戦闘前に捕虜を釈放する「美談」まで伝えられる榎本武揚を思うと、どっちが新時代の政府軍だか分かりゃしない。



↑患者に斬りかかる新政府軍を説得する先生〜両軍の休戦交渉↑(五稜郭タワーのジオラマ)

 このとおり、数も装備も貧弱な榎本軍であったが、新政府軍参謀:黒田清隆(西郷輝彦)は、榎本軍幹部に自分達より有能な人材が集まっていることを認め、高松凌雲先生に和平交渉の仲介を要請している。新政府の陣営に引き込んだ方が、何かと利用価値があるからだ。新政府軍からの降伏勧告を拒絶した榎本は、黒田清隆へ万国海律全書を送り付ける。戦火で灰になるのは惜しい。そんなにこの国の舵を取りたいなら、このくらい勉強しろ、ということだ。黒田清隆は相手が格上であることを思い知ったらしい。

 これらの史実を見てやりきれない思いが募る。悪い幕府をやっつけてようやく日本は近代国家になった、などという誤った教育を自分は受けてきた。ところがどうか・・・草莽の志士とやらが、攘夷だ!などと異人を斬ったりしている間、一部の幕臣達は広く海外へ留学するなどして、着々と西洋近代化への準備をしていた訳だ。当初、海軍力において幕府軍が圧倒していた事実を見ても、如何に彼らが努力していたかが分かる。なぜ幕府は敗れたのか・・・とにかく人を束ねる最高指揮官を欠いていた、としか言いようがない。だからホラ吹き勝海舟なんぞに、むざむざ幕引きをさせるハメになったのだ。
 戦い敗れた榎本軍幹部らは、明治政府でもそれなりの重職に就いている。歴史を下で支えているのは、一部のお調子者や芸達者ではなく、地道に勉強し地道に働く人間だと信じたい。



北条四郎のホームページ:敗者のための映画館


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